『赤い靴』

大学1年の夏休み、コンビニのバイト帰り。
シフトが押して、気がつけば終電が終わっていた。

タクシーに乗るほどのお金の余裕もなく、仕方なく歩いて帰ることにした。

家までは1時間ほど。途中、子どもの頃によく遊んでいた小さな公園の前を通った。
昼間は家族連れが多くてにぎやかな場所だったが、夜は街灯も少なく、真っ暗になる。

なんとなく「夜は行かない方がいい」と言われていた場所だった。

ただ、遠回りする気にもなれず、いつも通っていたように、公園を突っ切ることにした。

スマホのライトを頼りに、公園の中を歩いた。
風もない。虫の音すら聞こえない。不自然なくらい静かだった。
遊具は古びていて、滑り台はペンキが剥げ、ブランコはサビていた。

滑り台の横を通ったとき、なんとなく気配を感じて振り返ったが、誰もいなかった。
気のせいだと思い、歩き出そうとした瞬間——

キィ……キィ……。

どこかで金属が揺れるような音がした。
ライトを向けると、ブランコがひとつだけ、ゆっくりと前後に揺れていた。

風は吹いていない。自分が通ったときは止まっていた。

それが今は、まるで誰かが座っているかのように、静かに、でもはっきりと動いていた。

近づくか迷って立ち止まっていると、急にその揺れがピタッと止まった。

次の瞬間、背後で「ザリッ」と砂利を踏む音がした。

慌てて振り返った。しかし、誰もいない。
ただ、妙な寒気だけが背中を走った。

ブランコの方にライトを戻すと、下に何か落ちていた。
子ども用の小さな、赤い靴。片足だけだった。

誰かが忘れていったのか?でも、こんな時間に?なぜブランコの下に?
考えるほど怖くなって、そのまま公園を走り抜けた。

後日、友人にこの話をしたところ、「あの公園って、昔子どもが行方不明になった場所らしいよ」と言われた。
ネットで調べてみると、確かに10年前に未解決の失踪事件があった。

最後に目撃されたのは、公園に赤い靴を履いて入っていく姿だったという。

あのとき、もしブランコにもっと近づいていたらどうなっていたのか。
それ以来、あの公園には一度も近づいていない。

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