『呼ばれてはいけない名前』

高校一年の秋ごろだったと思う。
その日、俺は風邪で学校を休んだ。
38度台の微熱があって、家でずっと寝てた。
昼過ぎに目が覚めて、スマホを確認したらクラスのグループLINEがやけに騒がしい。

「誰だよマジで…」
「ふざけんなよ…」
「やめろって言ってんのに」

俺が休んでる日に限って何か揉めてる。気になって読み返してみたら、少しゾッとした。

話の発端は、誰かが教室の黒板の隅に「白川咲(しらかわ さき)」って名前を書いたことだった。
誰もそんな名前の生徒はいない。
けど、朝登校したら、ちゃんとチョークで黒板の端に書かれてたらしい。
しかも、筆跡は先生っぽくないけど、やけに丁寧だったと。

最初は悪ノリだと思って、みんなスルーしてたらしい。
でも、1時間目が終わったあと、「白川咲」って名前が出席簿に追加されてた。

出席番号25番。名前だけが印刷されたように入っていた。
担任に見せても、「前からあったよ」と真顔で言われたらしい。
クラスメイトは完全に混乱してた。だって、昨日までそんな名前、なかったんだから。

しかもそのあと、誰かが軽いノリで黒板の「白川咲」を消そうとしたらしいが消えなかったみたい。
何度消そうと試しても、同じ場所だけがどうしても消えない。
湿ってるわけでもないのに、何をしてもその名前だけが残る。

で、みんな気味悪がって放っておいたんだけど、3時間目の終わりに異変が起きた。

チャイムと同時に、誰かが後ろの方で「あっ」と短く叫んだ。
振り返ると、後ろの一番端の席に——女の子が座っていた。
セーラー服。長い髪。顔はうつむいてて見えなかったらしいけど、確かに“そこにいた”って。

ただ、誰もその席に座るのを見ていない。
移動してきたわけでもないし、入ってくる気配もなかった。
先生も「白川さん、いるね」と普通に出席を取ったという。

ここからLINEが一気に荒れた。

「ふざけて呼ぶのやめろ」
「出席簿から名前消して」
「ガチで気持ち悪い」
「白川咲って言ったやつ、誰?」

最初に名前を声に出して読んだ人がいたらしい。
そいつ、4時間目の途中で急に鼻血を出して、保健室に運ばれていた。

で、そのLINEのあと、急にグループから一人が退会した。
誰かと思ってメンバー確認したら、出席番号25番の「白川咲」だった。

……もちろん、グループにそんなアカウントなんて最初からなかった。

ここまで読んでて、俺は本気で震えてた。
なぜなら、その出席番号25番の席は、元々俺の席だからだ。

翌日、熱が下がって登校した。教室に入ると、クラス全体が微妙な空気だった。
俺が教室に入った瞬間、何人かがこっちをじっと見て、ひそひそ話を始める。

そして、席に行こうとしたら、机の上に紙が貼ってあった。

「この席は使用禁止。」

意味がわからなかった。
先生に言うと「お前の席はあそこだろ?」と運ばれたやつの席を指さしていた。
俺はゾッとした。だがそこに座るしかなかった。
そこはその席の前の席だった
授業中、俺の席の真後ろに誰かが立っているような気配がずっとしてた。

翌週、保健室に運ばれたやつは存在がなかったかのようにみんなの話題にもならなかった。

元の俺の席はそのまま誰にも使われずに、最後まで空いたままだった。
卒業アルバムの集合写真にも、なぜか一番後ろの端に小さく映ってる“誰かの姿”があった。
誰にも見覚えがないのに、なぜかみんな、その子の名前を言わずに黙ってる。

そういえば、卒アルの寄せ書きの最後のページ久々に見たら見覚えのない文が書いてあった。

『呼んだら、迎えに行くね』


あなたがもし黒板に見覚えのない名前が書かれていたら。
何となく、その名前を口にしたくなったら——
思い出してほしい。
この出来事のことを。

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